YodokonPlazaOnline
Home > YodokonPlazaOnline > Vol.37

VOL.37/July,1998

LINER NOTES  by Itoh Keishi

祇園祭・夏休み・演奏会〜夏の扉を開けると

夏の扉を開けるといつもよどこんの演奏会がやってきます。
まるで簾越しに梅雨開けの日差しを確認する時のように…、そろそろ宵の浴衣着の風 情を目にする機会も増え、最近ではすっかり気に入ってしまった祇園囃子の音色を心 待ちにする季節です。夏という季節の風情は、夏休みに詰まった子供の頃の思い出の せいでしょうか?

さて、淀川混声合唱団はついに第10回目の演奏会を迎える事になりました。私がよ どこんで指揮者を務めてから8年目に訪れた感慨深いイベントとなります。10回目 だからといって特に昔話をしみじみと語りたくなる気持ちはありませんし、それが打 ち上げ花火のようなその場限りのお祭りにするつもりもありません。よどこんは私に とってまだ「試行錯誤」の過程であることは間違いありませんし、その方向づけや練 習内容に関しても毎日頭を悩ませることばかりです。実は私がサッカーファンである ということは知る人ぞ知る事実でありますが、最近ワールドカップを見ていて思うの は、「観戦」する立場というのは何と気楽なのかということです。当たり前の事であ り、だからこそスポーツ観戦は多くのファンを獲得しているのでしょうが、実際にプ レーすることは、時にみっともなく、時にもどかしく辛いものでしょう。

人生において最も大切なものは、しかしやっぱり「仲間」なのかもしれません。一人 で生きられないのと同様、ハーモニーも一人では作れません。つまり、お互いの役割 があって和音は成り立ち、低い声や高い声という、お互いに持ち味力を出し合うこと によって「合唱」は出来ているのでしょう。一緒に「歌える」仲間と時間を持てるこ とはとても素敵なことです。その音楽の中身を充実させていくこと…。音楽によって 満足感の得られる合唱団に育っていくためにはまだまだ大変な努力が必要です。この 演奏会がよどこんの「明日」への架け橋になるよう願うばかりです。

P.S
先日の練習中に佐伯祐三展の感想を述べたところ、「私も行ってきた」という声を 多く耳にしました。私が佐伯の絵画に興味を持った事に驚きの声も幾つかありました が、以前このコーナーで佐伯の「人形」という絵画の人形の流し目がむねから離れな いという話をした事がありました。(の趣味はクレーやシャガールやマチスなどの知 性と夢幻とが戯れている絵画であることは疑いようはないのですが、その一方で自分 の本質的なところが、少しの事で動揺し、苦悩し、感情が大きく揺れ動くような表現 物であることは言うまでもありません。その狭間で揺れるているのが私ですが)伝説 的なイコン画家の苦悩の生涯を描いた「アンドレイ・ルブリョフ」という映画があり ますが、4時間にも及ぶ彼の生涯を白黒の画面で物語ってきた最後に彼の残したイコ ンの数々を色鮮や描き出すという手法が取られていることを思い出しました。佐伯の 生涯の苦悩とは随分性質の異なるものではありますが、佐伯の生涯の苦悩とともに徐 々に培われてきた彼自身のオリジナルの表現が最後の一年の創作絵画に集約されてい く過程は、表現者が苦悩しながら人生と格闘する様子と、その過程・結果として表さ れてくる「作品」との相関関係の深さと本質的な結びつきを改めて実感させるもので した。暗く重たい画調が多く、その雰囲気がパリの街角と覆い被さるようにして描か れてきた彼の作品が、最後の一年の作品を集めた部屋では、「青・赤・黄色」の衝撃 的な色彩に凝縮されています。それらを単品でなく、一同に集めた部屋の衝撃の凄ま じさはある意味ではスイスのクレー美術館で見たクレー畢生の天使のスケッチの連作 を目のあたりにした時の衝撃にも似てました。(もちろんどちらも時間帯が良く、客 がほとんど誰も居ない状態であったことは鑑賞スタイルとして重要ですが)
私は特に絵画に造けいが深い訳ではありませんが、「表現者」と「表現物」というも のには音楽に関わらず多大な関心を寄せています。人前で歌うということも性質は違 うものの、紛れもない「表現行為」の一つであります。表現者と受け手の中には、理 性を超えたメッセージの架け橋が出来るはずです。フルトヴェングラーの感動の定義 を持出すまでもなく、我々は最終的に何かの音楽的な塊を客席に投げかけなければな りません。声の良さであったり、ハーモニー・アンサンブルの緻密さであったり、そ して何より、悲しみや苦しみの情感を含めて「生きた時間」を共有しているというこ との喜びであるのではないでしょうか。表現出来る喜び、聞き手との間に架け橋を作 る機会を与えられた喜びを噛み締めて、第10回演奏会を思い出深いものにしたいも のですね。
 

以上

ki-home.gif   g 
よどこんプラザindexへ